今回は,前回に引き続き,
遅刻の取り扱いについてご説明致します。
未払残業代や未払給与を請求する際,
遅刻の取り扱いが問題となることが多く,
その取り扱いは,
ノーワーク・ノーペイの原則のもと,
各会社の就業規則や慣行により異なることは前回ご説明致しました。
今回も引き続き,
遅刻の取り扱いにつき,
具体的な問題を考察したいと思います。
1.賃金を控除する場合の計算方法
前回ご説明したとおり,労働者が遅刻した場合,
原則として会社には,その時間分の賃金を支払う義務はありません。
原則として労働者は,その時間分の賃金を請求することができません。
控除できる金額の計算方法としては,
基本的には,月給から「時給」を算出し,
それに遅刻した時間を掛け合わせることになります。
この「時給」の考え方については,
以前残業代の計算方法の記事でご説明したとおり,
一年間における一ヶ月平均所定労働時間数を基に
時間単価を算出する方法が分かり易いでしょう。
その他,各月の所定労働時間日数を基にする方法,
1年を通じて最も所定労働日数の多い月の,
所定労働日数を基に時間当たりの単価を算出する方法等が考えられますが,
いずれの方法にするとしても,会社としては,
就業規則等で明確化しておくことが望ましいでしょう。
2.遅刻者が残業した場合
それでは,遅刻者が残業をした場合に,
その遅刻者は会社に対して,
残業代を請求できるのでしょうか。
残業代は,
実際に労働した時間が法定労働時間(8時間)を
超過した場合に発生するものです。
そして,遅刻をした分の時間は,
実際に労働した時間に含まれません。
したがって,遅刻した時間だけ就業時刻後に勤務させた場合であっても,
それが法定労働時間を越えない限り,残業代は発生しません。
例えば,
所定労働時間が9時から18時(休憩1時間)であるとして,
遅刻により出勤が10時になった場合,
19時まで労働したとしても残業代は発生しません。
ただし,以下の点には留意する必要がありそうです。
例えば,
就業規則等において「~時以降の勤務に残業代を支払う」等,
労働時間ではなく時刻で残業代の有無を決めている場合,
そちらが優先され,
遅刻者でも残業代を請求することができる可能性があります。
また,深夜残業(22時以降)については,
法定労働時間に関係なく発生するものなので,
これを請求することもできるでしょう。
3.遅刻の場合の年休充当
遅刻の場合には,
年休(有給休暇)をもって充当するという取り扱いを
することはできるでしょうか。
労働者は年休(有給休暇)について,
時期を指定する権利を有しています。
つまり,労働者は,いつ年休を取得するかについて,
原則として自由に選択・決定することができるのです。
他方で,会社は,
労働者が請求する年休について,
事業の正常な運営を妨げる場合には,
労働者が請求する日の別の日に年休を付与することができます。
とすると,遅刻の場合は,
事業の正常な運営を妨げるものとして,
年休を自動的に充当する
という規定を就業規則等に設けることもできそうです。
しかし,「事業の正常な運営を妨げる」といえるためには,
当該労働者の年休取得日の労働が
その者の担当業務の運営にとって不可欠であり,
かつ代替要員を確保するのが困難であることが必要とされています。
そうすると,結果として生じている遅刻が,
業務運営に不可欠であるとか,
代替要員を確保するのが困難であるとは言いがたいのであれば,
年休充当の取り扱いは違法と評価される可能性が高いでしょう。
4.まとめ
以上のように,
労働者の遅刻に関しては,
様々な法律問題があります。
会社側としては,
きちんと就業規則等で遅刻の取り扱いを規定し,
労働者側としては,
その取り扱いを確認したうえで,
正当な残業代や給料を請求していくことが重要です。
いずれにしても簡単な問題ではないので,
専門の弁護士等に相談されることをオススメ致します。
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