最近、新規のご相談者様から、
「法律が改正されて、賃金債権の時効が3年になったから、
今からさかのぼって3年分の残業代を請求できるのではないか」
というご質問を受けることが多いです。
これまで労働基準法において、賃金債権の消滅時効は「2年」とされていました。
これは、民法で1年とされている消滅時効を、
労働者保護のために2年に延長したものでした。
ところが、2020年4月の民法改正により、
民法の消滅時効が5年に改正されたことで、
労働基準法による時効がこれまでどおり2年のままだと、
労働者保護のために民法の規定を延長し2年にした
という趣旨が崩れてしまうことになります。
もっとも、ここで急に改正民法に合わせて5年にしてしまうと、
労働者を雇う法人側からすると、5年分の支払責任、
またそれを果たすための書類等の管理責任を負担することになり、
その負担があまりに大きいため、
2020年4月から、当面の間、労働債権の時効を3年にすることになりました。
では、上記のお客様からのお問い合わせのように、
現時点で残業代を請求する場合、
3年前からの未払い残業代を請求できるのかというと
そういうことではありません。
改正法は、2020年4月以降に給料日が到来する給料や残業代につき、
適用されることになります。
詳細は、締め日や支払い日にもよりますが、
現時点(2020年8月)で残業代を請求しても、
2018年7月の残業代については、
旧法が適用され2年で消滅するので、
今から請求できるのは2年分ということになります。
ですので、実際にこの3年の時効の意味が出てくるのは、
2022年4月以降ということになります。
2022年6月に残業代を請求する場合には、
2020年4月~2022年6月までの約2年2ヶ月分の請求ができ、
2023年4月に残業代を請求する場合には、
2020年4月~2023年4月までの約3年分の請求が可能となります。
なお、3年というのは経過的な改正であり、
理屈としては、近い将来、民法の規定に合わせて5年とすべきという見解が強いので、
今後、労働者としてはその権利が拡充され、
逆に法人側としては、残業を含めて労務管理の重要性が増す
ということになると考えられます。
弁護士 伊倉 吉宣